免疫療法
現在、一般的に行われているがん治療は、外科治療(手術)、化学療法(分子標的薬を含む抗がん剤による治療)、放射線治療の3つで、これらを総称して三大がん治療といわれています。この三大がん治療に加えて、近年“第4のがん治療”として注目されているのが免疫療法です。免疫とは、体の中に侵入した異物を排除するために、誰もが生まれながらに備えている能力です。この能力を高め、がんの治療を目的とした免疫療法を特に「がん免疫療法」といいます。
近年、免疫システムの研究が大きく進み、新しいタイプの治療法が次々に登場するなど、がん免疫療法は注目されており、アメリカの科学誌「サイエンス」は、Cancer Immunotherapy(がんの免疫療法)を身体の免疫システムを利用した非常に魅力的な治療法であるとして、2013年の科学のブレークスルー(画期的な進展)に選びました。
Science 20 December 2013 vol 342, issue 6165, 1405-1544
がん免疫療法の種類
「特異的」がん免疫療法
※「特異的」とは、がん細胞だけ狙い撃ちすることを意図した治療です。
- 人工抗原樹状細胞ワクチン療法
- 自己がん組織樹状細胞ワクチン療法
「非特異的」がん免疫療法
※「非特異的」とは、身体全体の免疫底上げを意図した治療です。
- NKT細胞標的治療
- NK細胞療法
- 活性化リンパ球(LAK)療法
特異的がん免疫療法
人工がん抗原樹状細胞ワクチン療法
この治療の特徴
- 人工的に合成したがんの目印(人工がん抗原)を使用した、がんワクチン治療です。
- 人工がん抗原の型が患者さまの白血球の血液型に適合する場合に対象となります。
- ほぼ全てのがん治療(手術、抗がん剤、放射線療法、緩和医療など)と併用が可能です。
使用する人工がん抗原には、権威ある米国がん研究関連雑誌である「クリニカル キャンサー リサーチ」でがん抗原として最も優れていると評価された「WT1」の一部である「WT1ペプチド」をはじめ、個々の患者さまのがんの種類や血液検査、組織検査などの指標に基づいて、数種類の中から選択して使用します。
樹状細胞ワクチン療法
司令官を体の外で増やします
樹状細胞は、免疫細胞に分類され、リンパ球にがんの目印を教えてがんを攻撃させる、いわゆる抗腫瘍免疫における「司令官」です。しかしながら、がん細胞が増えすぎると、樹状細胞の働きが追いつかなくなることもあり、その結果、がん細胞が増殖してしまいます。 その問題を解決するため、樹状細胞を体外で培養し、増やしてから患者さんの体内に戻す「樹状細胞ワクチン療法」が開発されました。がんに厳しく患者さんにやさしい治療法
樹状細胞ワクチン療法は、樹状細胞の働きを活かした最新のがん免疫治療です。ご自身のがん組織や、人工的に作製したがんの特徴を持つ物質(がん抗原)を用いて、患者さんの樹状細胞にがんの目印を認識させてから体内に戻す『がん抗原樹状細胞ワクチン療法』があります。近年、樹状細胞ワクチン療法を用いた、『NKT細胞標的治療』が開発されました、NKT細胞標的治療は第4のリンパ球のNKT細胞を活性化させる免疫機能活性物質(アルファ・ガラクトシルセラミド)を樹状細胞に認識させ、非特異的免疫力を強化する最新の治療の樹状細胞ワクチン療法です。がん免疫療法の歴史は1970年代から始まり、その種類は多岐にわたります。 最新の免疫治療の『がん抗原樹状細胞ワクチン療法』や『NKT細胞標的療法の樹状細胞ワクチン療法』は、副作用はなく、がん細胞を攻撃しかつ正常細胞を傷つけないことから、「がんに厳しく患者さんにやさしい治療法」と言われます。
人工がん抗原を用いて樹状細胞を司令官にする方法
がんの目印を樹状細胞へ覚えさせるためには、手術などで取り出した患者さんのがん組織が必要になります。しかし、既に手術を終えて、がん組織を摘出・廃棄済みの場合や、全身状態が悪くてがん組織を採取できない場合があり、自己がん組織を用意するのは容易ではありません。そこで考え出されたのが、多くのがん種で高頻度に発現しているがんの目印を人工的に合成し(人工がん抗原)、それを樹状細胞に覚えこませる方法です。そして、この人工がん抗原の中で注目を集めているのが、「WT1ペプチド」です。このがん抗原は、多くの固形または血液がんに発現しているため、樹状細胞が認識すべきがんの目印として好都合です。現在までに、樹状細胞ワクチン療法に使用できる人工がん抗原は数多く開発されてきましたが、それらの中でもWT1ペプチドは有用ながん抗原として高い評価を受けています。
「樹状細胞を用いてNKT細胞を活性化させる方法(NKT細胞標的治療)」(αNKT®療法)
NKT細胞は1986年、理化学研究所のチームが発見されました。NKTの名前の由来は、自然免疫の能力があるナチュラルキラー(NK)細胞と、獲得免疫のT細胞という2種類の免疫細胞の特徴を併せ持っていることに由来しています。2012年から順次、進行性肺癌・頭頚部癌・術後肺癌を対象とした『先進医療B』として承認されています。
樹状細胞ワクチン療法の症例実績数
これまでに全国の関連医療機関で累計約12,000症例以上の治療実績があります。(2018年12月末現在)樹状細胞ワクチン療法(がん免疫療法)のしくみ
自己がん組織樹状細胞ワクチン療法
この治療の特徴
- 手術で御自身のがん組織を採取し、それをがんの目印として使用する樹状細胞ワクチン療法です。
- 手術でがん組織を採取可能な方が対象になります。
- ほぼ全てのがん治療(手術、抗がん剤、放射線療法、緩和医療など)との併用が可能です。
自己がん組織としては、薬剤処理を行う前の、手術後間もない新鮮な状態のものが必要となります。
そのため、主治医や執刀医にご協力頂き、手術直後に当方指定の容器にがん組織を採取し、手術後24時間以内に当クリニックまでご持参頂く必要があります。詳細につきましては、事前にお問い合わせください。
そのため、主治医や執刀医にご協力頂き、手術直後に当方指定の容器にがん組織を採取し、手術後24時間以内に当クリニックまでご持参頂く必要があります。詳細につきましては、事前にお問い合わせください。
主なリスク、副作用について
-
採血時はめまいや吐き気、皮下出血、成分採血時は口の周りや手のしびれ等の症状が発生する場合があります。
投与時は発熱や局所の発赤腫脹、また稀ですが水泡形成等の症状が発生する場合があります。
非特異的がん免疫療法
活性化リンパ球療法(LAK療法)
この治療の特徴
- 血液中に存在するリンパ球を体外で殺傷力のあるリンパ球に培養して体内に戻す治療法です。
- がん免疫療法を希望される患者さまが対象になります。
(血液がんなど、一部適応とならないものがあります。) - ほぼ全てのがん治療(手術、抗がん剤、放射線療法、緩和医療など)との併用が可能です。
患者様のTリンパ球数が少ない場合など、実際にがんを攻撃するリンパ球を培養によって大幅に増やす治療です。樹状細胞ワクチン療法は、リンパ球の中のTリンパ球を教育し、がんのみ作用するTリンパ球を体の中に誘導してがんを攻撃します。(特異的なキラー細胞)
NK細胞療法
NK(natural killer)細胞は、がん細胞を攻撃する兵隊役である、リンパ球の一種です。直訳すると『生まれながらの殺し屋』という名前の通り、がん細胞やウイルスに感染した細胞などの異常な細胞を見つけ次第、攻撃します。リンパ球の10~30%を占め、自分以外の細胞を殺してしまうほどの高い攻撃力を持つ細胞です。このNK細胞を患者さんの血液から採取して、キラー活性(細胞を殺傷する能力)を高め、攻撃力を強めてから細胞を点滴注射で戻すのが「NK細胞療法」です。
がん細胞は、がんの目印の一つ(MHC分子)を隠すことがあり、この場合はT細胞の攻撃をすり抜けてしまうことがあります。これを補完するのがNK細胞なのです。NK細胞は、がん細胞からのがんの目印(MHC分子)を隠したがん細胞を攻撃する性格を持ち、目印を隠したがん細胞をすみやかに感知し「自分とは違う細胞」と考えて攻撃を始めます。
樹状細胞ワクチン療法とNK細胞療法を併用することで、リンパ球の中の細胞のそれぞれの反応の違いを補い合って、よりがんへの高い攻撃効果が期待できるのです。
がん細胞は、がんの目印の一つ(MHC分子)を隠すことがあり、この場合はT細胞の攻撃をすり抜けてしまうことがあります。これを補完するのがNK細胞なのです。NK細胞は、がん細胞からのがんの目印(MHC分子)を隠したがん細胞を攻撃する性格を持ち、目印を隠したがん細胞をすみやかに感知し「自分とは違う細胞」と考えて攻撃を始めます。
樹状細胞ワクチン療法とNK細胞療法を併用することで、リンパ球の中の細胞のそれぞれの反応の違いを補い合って、よりがんへの高い攻撃効果が期待できるのです。
MHC分子を出しているがん | MHC分子を出していないがん | |
---|---|---|
NK細胞 (NK細胞療法の攻撃役) |
反応しない | 攻撃する |
Tリンパ球(T細胞) (樹状細胞ワクチン療法の攻撃役) |
攻撃する | 反応しない |
主なリスク、副作用について
- 採血時はめまいや吐き気、皮下出血等の症状が発生する場合があります。
投与時は発熱や頭痛、関節痛等の症状が発生する場合があります。
他治療との併用
放射線治療との併用
樹状細胞ワクチン治療は放射線治療と相性がよく、特に同時期、放射線治療に同期して投与を行うことで腫瘍特異的CTLの誘導がより効果的にできます。放射線を照射するとがん細胞の隠れていたHLA-Class I分子の発現が強くなること。放射線を照射するとがん細胞の障害に伴いHMGB1が放出され、樹状細胞を活性化することが想定されています。
放射線照射によるがん細胞のダメージ・細胞死はimmunogenic cell deathとされ、これを樹状細胞が貪食し、抗原提示することでCTLが効率的に誘導されると考えられています。米国ではこの放射線照射と抗CTLA-4抗体(ヤーボイ、CTLの活性化)を同期して併用することで、意図的に治療としてのアブスコパル効果を起こそうという試みが始まっています。われわれの樹状細胞ワクチンも、照射後のこのCTL誘導メカニズムを増強することにつながります。樹状細胞ワクチンには、抗CTLA-4抗体(ヤーボイ)の持つ免疫関連有害事象(irAE)がないため、より安全なアプローチが可能と考えています。
最近では、WT1特異的CTLの誘導には、①放射線療法の前から数回、先行して樹状細胞ワクチン投与開始がベスト、②難しければ放射線療法中もしくは放射線療法後の1-2か月以内に樹状細胞ワクチン投与を開始すると、WT1特異的CTLがより効果的に誘導されるというデータが出つつあります。放射線治療自体は、原発巣にかぎらず、骨転移部分などでも全く問題ありません。こうした放射線治療によるCTLの誘導現象は、以前より、知られていた〝アブスコパル(abscopal)効果〟原発巣の照射後に遠隔部位のがんも消えるという現象のをよく説明できます。
温熱療法との併用
温熱療法は熱ショックタンパク(HSP)の発現を上昇させ、抗原特異的免疫活性を高めること等も報告されています。