【がんの免疫療法】T細胞の働きとメトホルミンの効果への期待

主に糖尿病の治療薬として広く使用されているメトホルミン。

現在さまざまな研究が進められており、アンチエイジングやダイエット、がん治療への効果の期待も高まっています。さらに、薬価が1錠250mgあたり約10円と安価なのも使用されやすい点なのではないでしょうか。

また、病気や老化に対抗できる健康な身体を維持するためには、お薬に頼るだけでなく、免疫力の強化が大切ですよね。

本記事では、メトホルミンの効果とがん治療との関係性、免疫細胞の働きについて解説していきます。

病気やお薬に関する知識を身につけ、自分や家族の健康増進に役立てましょう。

目次

メトホルミンの効果とは?

メトホルミンは2型糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群の治療に用いられるお薬で、血糖値を下げる効果があります。

2型糖尿病の治療で用いる際は、運動療法・食事療法では症状が改善しなかった場合にのみ使用されます。または、これに加えスルホニルウレア剤(こちらも血糖値を下げるお薬)の投与で効果が得られなかった場合にも使用されるようです。

多嚢胞性卵巣症候群の治療で用いる場合は、肥満、耐糖能異常(糖尿病予備軍ともいわれる)、又はインスリン抵抗性のいずれかの症状がある場合にのみ使用されます。

また、以前は腎機能障害の患者には禁忌とされていましたが、令和元年に見直しがされ、慎重に投与するという前提の元、軽度〜中度の腎機能障害患者への投与は可能となりました。

副作用と注意点

主な副作用として、下痢や吐き気、食欲不振、腹痛、皮膚のかゆみなどがあります。

また、発症の頻度は極めて低いですが、重篤な副作用として「乳酸アシドーシス」があります。乳酸アシドーシスの初期症状は、嘔吐や腹痛、下痢などの胃腸症状、筋肉痛や倦怠感などがあり、進行すると過呼吸、脱水、低血圧、昏睡となり死に至る可能性も高いです。

脱水の症状がある場合や、体調不良時にはこの乳酸アシドーシスを発症するリスクが高くなるため、休薬するのが望ましいとされています。

さらに、倦怠感や極度の空腹感が現れる低血糖症状にも注意が必要です。

※糖尿病と多嚢胞性卵巣症候群を合併している場合は、糖尿病の治療が優先されます。

お薬は正しく使用していても、副作用が現れるリスクも存在します。副作用だけでなく効果の出方も人それぞれですので、気になる点があれば適宜主治医と相談の上、服薬治療していくことが大切ですね。

糖尿病とは?

糖尿病とは、血糖値(血液の中に含まれているブドウ糖の量)が慢性的に高くなってしまう病気です。

糖尿病にも、1型糖尿病、2型糖尿病とその他の糖尿病などいくつか種類があります。

1型糖尿病

何らかの原因で膵臓のβ細胞が壊れてしまうことでインスリンの分泌が低下し、血糖値が高くなります。急激に症状が現れ、若年層ややせ型の人に多いのが特徴です。注射でインスリンを補う治療が行われます。

2型糖尿病

遺伝のほか暴飲暴食や運動不足などが危険因子となり、糖尿病患者の9割以上が2型糖尿病とされています。初期は自覚症状がないことも多く、中高年で肥満型の人に多いのが特徴です。食事や運動療法、薬物療法が中心ですが、場合によってはインスリン療法を行うこともあるようです。

その他の糖尿病には、特定の病気による糖尿病や、妊娠糖尿病などがあります。

糖尿病の主な症状は、頻繁にのどが渇く、排尿の回数が増える、疲れやすい、体重減少などがあります。さらに、進行すると三大合併症の神経症、網膜症、腎症に加え、動脈硬化や心疾患などの重大な合併症を引き起こすのが糖尿病の怖いところです。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?

卵巣の中で男性ホルモンが通常量より多く分泌され、卵胞の成長に時間がかかることで排卵が起こりづらくなる若い女性に多い病気です。にきび、体重増加、多毛などの症状がみられ、生理不順や不妊の原因にもなります。

さらに、メタボリックシンドロームや糖尿病を発症する可能性が高まります。

がん治療とメトホルミンの関連性

岡山大学の共同研究グループの研究結果で、メトホルミンが制御性 T 細胞(※1)の増殖と機能を抑えることが明らかになりました。

がんはこの制御性 T 細胞の働きを利用して、体内で攻撃されるのを防いでいます。しかし、メトホルミンは、免疫細胞が正しく働くようにサポートする役割を担うことがわかり、がん免疫療法の治療効果をより高められるようになったというわけです。

奏効率の低さや副作用などの問題は残されていますが、メトホルミンを用いたがんの免疫治療方法は、今後より安全で効果的な治療法の開発に期待が高まるでしょう。

(※1)制御性 T 細胞とは、自己免疫疾患にならないために、免疫の機能が病原体だけでなく自分の身体まで攻撃しないように制御する役割を持つ細胞です。

また、臨床現場で得られる医療データから、糖尿病患者の治療にメトホルミン使用は、がんの発症率と死亡率の低下に関連しているようです。

糖尿病がない人を対象とした過去の研究では、大腸ポリープを切除した後の新しいポリープの発生が抑制され、低用量メトホルミンの 投与は1年間は安全だったという結果も出ています。

しかし、これらの結果はほかの要因も混ざっている点もあり、今後はよりランダムに分析し大規模で長期間の研究をする必要があるとも述べられています。

現在、国立がん研究センターと中央病院は、膠芽腫(悪性脳腫瘍)の治療に、メトホルミンと抗がん剤を併用することの有効性を示す研究を引き続き行っています。

第Ⅰ相臨床試験結果では、初発膠芽腫の患者を対象とした試験を行い、安全性が示されました。 2022年6月からは、有効性の検証のため第Ⅱ相臨床試験が開始されています。

今後もメトホルミンのさらなる活躍に期待したいですね。

免疫について

免疫には、自然免疫と獲得免疫の2種があります。

外部から細菌やウイルスが体内に入ってくると、まず自然免疫がいち早く反応し、外敵と戦い始めます。

自然免疫とは、元から身体に備わっている免疫のことで、主に好中球やマクロファージなどが活躍し、どんな病原体に対しても迅速に働きかけてくれる免疫です。

風邪や感染症などに罹りにくくするには、食生活に気を付け、適度な運動習慣やストレスを溜め過ぎないことなどによる自然免疫の向上が重要になります。

自然免疫だけでは対処しきれなくなった場合に作用するのが、獲得免疫です。

獲得免疫は、病原体と戦う際に、自然免疫から得た情報をもとに病原体に合わせた抗体を作り出します。獲得免疫は特定の病原体のみと戦います。

一度かかった病気にかからないようにする(症状を軽減する)ワクチンは、この獲得免疫の働きを利用したものです。

獲得免疫の種類と働き

獲得免疫の種類には、「液性免疫」と「細胞性免疫」があります。

液性免疫は、病原体が侵入してきた際に、抗体を作ることで応戦し、作られた抗体は、体液によって全身に運ばれます。しかしこの抗体は細胞の外でのみ効果を発揮するため、細胞内に侵入してきた病原体に対抗するには、細胞性免疫の活躍が必須になるのです。

一方、細胞性免疫は、病原体と直接戦います(チームを組んで最前線で敵と戦うようなイメージです)。

細胞性免疫の中のT細胞には、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞の3種類があります。

ヘルパーT細胞は、免疫に敵との戦い方の指示を出す細胞です。

キラーT細胞は、自らが動いて敵と戦う性質を持ち、ウイルスなどに感染した細胞を破壊します。

制御性T細胞は、キラーT細胞が過剰に働いて体内の良い細胞(感染していない細胞)まで攻撃してしまうのを防ぐ役割があります。

がんの免疫療法とは?

がんの免疫療法は、人間の免疫力を使ってがんと戦う治療方法です。この方法は、がんを攻撃するT細胞の働きが抑制されないようにすることと、働きを強めることがとても重要です。

現在では、効果が証明されている免疫療法は限られており「免疫チェックポイント阻害薬」というお薬を使った治療法と、その他の免疫療法があります。

免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞の働きが抑制されるのを防ぎます。

保険診療で使用できる免疫チェックポイント阻害薬は、「診療ガイドライン」に記載されたもののみです。治療の対象となるがんには、メラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がんなどがあります。

国内で保険診療の対象となっているその他の免疫療法は「CAR-T細胞療法」です。

がん患者のT細胞を取り出し、がんに対抗できるように強化してから再び体内に戻す方法で、2019年に承認された最新のがん治療の方法になります。

CAR-T細胞療法は副作用が起きやすいため入院での治療が必要で、対象になるがんは一部の血液がんのみに限られているようです。

【参考資料】

日医工株式会社 メトホルミン塩酸塩錠250mgMT「日医工」

メトホルミン塩酸塩錠500mgMT「日医工」

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【参考文献】

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